Vol.33 オオタカ Eurasian Goshawk(Astur gentilis)
2025.04.22






<分布など>
イギリス諸島、スカンジナビア半島、ロシア北部、シベリア、南は地中海、コーカサス、ヒマラヤ、日本を含むヨーロッパと北アジアに広く分布している。また、アラスカ西部および中央部、カナダ、アメリカ、南はメキシコまで、北アメリカにも広く生息している。生息域の大部分では留鳥性だが、北米、スカンジナビア、ロシアの最北の個体群では部分的に渡り性である(Squires et al.)
日本では沖縄県を除く全土に分布し、繁殖が確認されている。沖縄県では越冬期に確認されることがある。北海道など豪雪地帯のものは南下する。
ヨーロッパの個体数は234,000~380,000羽と推定されている(BirdLife International In prep.) ヨーロッパは世界的な生息域の約26%を形成しているため、世界的な個体数規模を推定すると90万羽~146万羽になるが、この推定値については検証が必要である。カナダとアメリカにおける個体数は成鳥個体数で21万羽と推定されている(Partners in Flight 2020) これらの情報から世界中の推定成鳥個体数は100万羽~250万羽と推定される。
19~20世紀におけるヨーロッパでの著しい減少は、ハンディングと森林伐採によるもので、1950~1960年代における減少は、農薬や重金属による中毒の結果であると考えられている。ノルウェーにおけるオオタカの巣の研究によると、残留性有機汚染物質が血液、羽毛に存在していることが示唆されている(Briels et al.) 鷹狩りのための巣の強奪と同様に、迫害も脅威であり続けている(Orta and Marks 2014)。また、風力発電所開発の影響に対しても非常に脆弱である(Strix 2012)。木材伐採は営巣個体群にとっての主要な脅威であり、巣や巣台は定期的に破壊され、また伐採作業によって破壊されるが、繁殖成功への影響は不明である(Squires et al.) 巣の近くでの伐採活動による撹乱も巣の失敗の原因となる(Boal and Mannan 1994)。北米西部では山火事の頻度と強度が増加し、ねぐらや採餌に適した場所が減少している(Blakey et al.) ヨーロッパのいくつかの国々における減少は、農業と林業の激化に伴う食糧供給の 減少、およびワシミミズクBubo buboとの巣場競争の激化に関連している(Rutz他 2006年)。世界的には個体数の変化は不明であると考えられている。この種は北米では過去40年間にわたり安定した個体数傾向を示している (Breeding Bird Survey、Christmas Bird Countのデータ: Butcher and Niven 2007)。ヨーロッパでは、個体数は24年間(3世代)で59%減少していると推定されている。最近、オランダ東部(Rutz他、2006年)、ドイツ(Gedeon他、2015年)、デンマーク(2005~2014年、年率-8%、Nyegaard他、2015年)、フィンランド(Valkama他、2011年)で減少が記録されている。
<分類>
7亜種に分類される。Accipiter atricapillus(laingiとapacheを含む)は発声・形態・ミトコンドリアとゲノムDNAの分岐の違いに基づいて、A.gentilisからスプリットされている(Geraldesら2019; Kunzら2019; Sangster 2022; Chesserら2023)。アメリカオオタカA.atricapillusとの種分化に伴い、Accipiter gentilis(今は Astur gentilis)の英名をNorthern GoshawkからEurasian Goshawkに変更した。
〇 A.g.buteoides
主にユーラシア大陸の北部に生息する亜種。北西ヨーロッパからシベリア西部にかけての地域が主要な分布域とされる。繁殖期には、北欧からロシアのヨーロッパ寄り、そしてシベリア西部(エニセイ川やレナ川付近まで)で見られる。冬季には、これらの地域からやや南下し、中央アジアやロシア南部に移動する個体も多いとされる。大型の亜種で背面がやや濃い色で下面の横縞が太く目立つ傾向があると言われる。
〇 A.g.albidus
主にシベリア東部から極東ロシアにかけての地域に生息する亜種。ロシアの沿海地方、ハバロフスク地方、カムチャツカ半島、そしてサハリン島を含むシベリア東部が主要な分布域となる。他のオオタカの亜種と比較して、より寒冷で過酷な気候に適応しており、冬季には一部の個体が南下して沿海地方南部や中国東北部(旧満州地域)に移動することもある。体色が比較的淡く、白っぽい羽毛が特徴的である。生息域が広大で人口密度の低い地域であるため、詳しい個体数や分布の細かな変動については研究が限られている。
〇 A.g.schvedowi
主に東アジアの中国東北部、朝鮮半島、そしてロシア極東部の南部にかけて生息する亜種。中国の黒竜江省、吉林省、遼寧省といった北東部、朝鮮半島全域、ロシアの沿海地方南部からウスリー川流域付近が主要な生息域となる。冬季には一部の個体がやや南下して中国中部や朝鮮半島南部、日本に移動する。この亜種はalbidusやgentilisと分布域が隣接しているため、境界地域では交雑が起こる可能性が指摘されている。中型で比較的濃い色調が特徴で、幼鳥特に地色が白っぽい。
〇 A.g.fujiyamae
日本で繁殖している亜種。沖縄県を除く全土で繁殖している。九州はやや少ない。中型の亜種。
〇 A.g.gentilis
主にヨーロッパ全域に広く分布しており、オオタカの基亜種である。東ヨーロッパのウクライナ、ベラルーシ、ロシアのヨーロッパ寄り(モスクワ周辺まで)が主要な分布である。北アフリカの一部(モロッコやアルジェリアの山岳地帯)やトルコ西部にも分布するが個体数が少ない。
〇 A.g.marginatus
主にヨーロッパ南東部から中東にかけて分布している亜種である。イタリア南部およびバルカン半島、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、アルバニア、マケドニア、ブルガリアなど。
〇 A.g.arrigonii
地中海の島嶼部に特有の亜種。イタリアのサルデーニャ島、フランスのコルシカ島に生息する亜種である。他のオオタカ亜種(gentilisやmarginatus)と比較して分布域が非常に狭い。島嶼特有の生態系に依存しているため、地理的な隔離されている。そのため、他の亜種との交雑はほとんど起こらず、独自の進化を遂げている
<渡り>
本種は主に留鳥だが、北アメリカ、スカンジナビア、ロシアの最北の個体群 は9月から11月の間に南下し、3月から4月に繁殖地に戻る(del Hoyoら、1994、Snow and Perrins 1998)。北海道においては冬季に暖地に渡っている。北海道の宗谷岬では少数がサハリン方面から渡ってくる個体が少数見られる。福岡県、佐賀県、山口県では朝鮮半島経由の個体群が観察されている。
<飛翔形>
指状部(Fingers)は6枚である。ハイタカの仲間特有の尾羽の長い飛翔形をしている。頭部の突出は少なく、十字架に近いバランスをしている。体は太く、翼幅もあり重厚感がある。幼鳥はP1-4あたり(初列風切の最初の4枚)が短く見えるため、その部分がへこんで見える。
<がりメモ>
日本オオタカネットワーク創設30周年という節目なのでオオタカを題材にしました。他亜種の写真の発掘に時間がかかり少しになってしまいました。また時間があるときに追加したいと思います。