世界の猛禽類

Vol.30 オジロワシ White-tailed Eagle(Haliaeetus albicilla

2024.10.12

亜種albicilla 成鳥 尾羽は白く、雨覆いなどや体に白斑はない。頭部はやや白っぽい。
亜種albicilla 2暦年 尾羽は白く黒っぽい羽縁がある。羽根の先端が尖っていることから幼羽を示唆している。P1-4が新羽
亜種albicilla 成鳥 尾羽は白い。頭部は白いが褐色味を帯び、胸の褐色と頭部の白色の境界が不明瞭であるところがハクトウワシとの識別点となる
亜種albicilla 4暦年 尾羽は白いが黒色の羽縁がある。下雨覆、体羽に白い部分がある。P1-2が新羽と考えられる。
亜種albicilla 成鳥 北海道では道東および道北で繁殖していたが近年繁殖域が拡大している。

 

<分布など>

ノルウェーとロシアを中心に南西グリーンランド、デンマーク、スウェーデン、ポーランド、ドイツにも大きな個体群が生息する。他にも少数の個体群がアイスランド、イギリス、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、ベラルーシ、オーストリア、チェコ共和国、スロバキア、スロベニア、旧ユーゴスラビア諸国、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、モルドバ、ギリシャ、トルコ、イラン、アルメニア、グルジア、アゼルバイジャン、ウクライナ、カザフスタン、トルクメニスタン、モンゴル、中国、および日本で繁殖している。日本では近年になって繁殖域が広がりつつあり北海道、青森、新潟などで繁殖しており、個体数の増加が顕著。以前はアルジェリアでも繁殖していたが今は見られていない。イラクでも繁殖している可能性があるが詳細は不明である。ほとんどは渡りを行わずに留鳥だが、冬季になると南下する個体群がみられ、中央ヨーロッパ、インド、韓国、中国東部までに達する。日本では中部地方から山陰地方くらいまで南下する個体もいる。

ヨーロッパでは、繁殖個体数は10,400~14,600つがい、成熟個体数は20,900~29,200羽と推定されている(BirdLife International in prep.) ヨーロッパは世界的な生息域の50~74%を形成しているため、世界的な個体数の推定値は28,200~58,400羽となるが、この推定値についてはさらなる検証が必要である。

巣の保護、安全な餌の提供、バイエルンなど特定の地域への再導入などの保護対策により、個体数は局所的に増加している(Ferguson-Lees and Christie 2001)。ヨーロッパの個体数は純粋に増加している(BirdLife International in prep.)。ロシアの一部(Shukov 2019)と日本でも個体数が増加している(Shiraki 2018)。この種は生息域が非常に広いことや個体数が増加傾向であることなどから、この種は「低懸念(Least Concern)」と評価される。

この種に与える脅威は湿地帯の損失と劣化、人間による撹乱と迫害、環境汚染、風力発電機との衝突(Krone and Scharnweber 2003)、毒物の無差別使用などがある。近代的な林業手法により、営巣に適した生息地が減少している(Orta et al.) 有機塩素系農薬や重金属による汚染は、特にバルト海沿岸地域で繁殖成功率の低下をもたらした(Orta et al.) アジアやロシアでは伐採や石油産業開発の増加により若干の減少が見られるが、ヨーロッパでの増加がそれを上回っている。フィンランドでは、使用済み弾薬による鉛中毒事故が依然としてかなりの死亡原因となっており 全体として、人為的要因がワシの死亡原因の60%を占めていることが明らかになった(Isomursu et al)。大木が失われたことで営巣に適した場所が不足し、人間への馴化が進んだことで、ワシは都市に近い場所で営巣するようになった(Shiraki 2018)。このためワシと交通の衝突事故が増加し、繁殖成功率の低下につながっている可能性がある(同書)。風力タービンとの衝突はさらなる死亡要因であるが(Heuck他、2019;Matsuda他、2021)、そのリスクは順応的管理によって軽減することができる(Matsuda他、2021)。鳥類は時折、鳥インフルエンザウイルスの発生によって脅かされる(Krone et al.)日本でも橋梁や道路などにオジロワシが衝突しないようにポールや壁などが設置される試みが行われている。

魚類に依存している傾向は変わらないが、鳥類、哺乳類、腐肉、内臓なども食べる。鳥類ではカイツブリ、アヒル、ガン類、ハクチョウ、ウ、インコ、キジ、ウミネコ、オオセグロカモメなどを狙う。フルマカモメなどの海鳥類も食べる。オジロワシによる捕食を避けるために移動する鳥類もいるほどであり、北海道ではウミネコやオオセグロカモメのコロニーが崩壊するほどである。ハタネズミ、ヒツジ、シカの子、ノウサギ、ホッキョクギツネ、ジャコウネズミなどの哺乳類も食べる。

<分類>
一部の個体群のみが別亜種とされ、2亜種が確認されている。

〇  H. a. albicilla グリーンランド以外の個体群
〇  H. a. groenlandicus グリーンランドの個体群

<渡り>

ほとんどは留鳥に近いが、一部は渡りを行う。群れることは少なく、大規模な群れが観察される場所はないが少数がフランス、スペイン、ポルトガル、マルタに渡ることが知られている。しかし、中継地として集中する場所は見つかっていない。断続的な渡りがトルコ、レバント諸国、アゼルバイジャン、イランからペルシャ湾にいたるまでのいくつかの地域で見られている。日本では宗谷岬で少数が南下しているのが見られている。

<飛翔形>

指状部(Fingers)は7枚であり、海ワシ類に共通する幅があり長い翼を持つ。体に対して翼の方が長い。羽ばたきもスライドが大きい。S2-4が他の羽根より長く目立つ。海ワシ類をシルエットで見分けることは難しい。オオワシとの識別は遠方でも可能で、尾羽が扇形であること(オオワシはくさび型)、旋回時には翼は水平に広げる傾向にある(オオワシ翼の先端が旋回時にやや反りあがっている)。