Vol.31 オオワシ Steller’s Sea Eagle(Haliaeetus pelagicus)
2024.11.04
<分布など>
極東にのみ分布する。ロシアのカムチャッカ半島、オホーツク海周辺の沿岸地域、アムール川下流域(ゴリン川以南)、サハリン北部およびシャンタルで繁殖する。冬季になると南下し、サハリン、北海道、東北を主な越冬地としている。日本のその他の地域では数が少ない。中国北東部、北朝鮮、韓国でもごく稀に観察される。1991年から2009年にかけて、マガダン地方の内陸河川個体群は繁殖成功率が低下しており、沿岸個体群は同じ期間に繁殖成功率が緩やかに上昇していることから、これらの個体群はそれぞれシンク個体群(減少もしくは絶滅しそうな個体群)とソース個体群(安定的で供給源としての個体群)と考えられている(Potapov et al.) 総個体数は5,000~7,000羽、北方四島を含む日本国内の越冬数は 2,000~2,500羽と推定されている(中川、2009b、2013)。M. McGrady et al. (in litt. 2012)は、世界の個体数を約4,600~5,100個体、うち繁殖ペアは約1,830~1,900組、成熟個体数は約3,600~3,800頭と推定している。しかし、Masterov and Romanov (2014)は、世界の個体数を6,000-7,000と推定しており、これは成熟個体数4,000-4,670にほぼ相当する。しかしながら、近年の観察において8000羽を超えるオオワシが宗谷岬から渡ってきており、総個体数としてはもっと多い可能性が指摘される。
繁殖地での生息地転換に伴う移動、日本内陸部での鉛中毒による死亡や列車や車との衝突、 気候変動によるマガダン地区での繁殖率の低下、サハリン島でのヒグマによる巣の捕食による繁殖成功率の低下などにより、地域的に個体数が減少している。重大な脅威が現在進行中であり、そのうち気候変動などの要素はさらに悪化すると予測されているため、将来的には3世代にわたって20~30%の割合で減少すると考えられている。そのため、「VU(危急種)」に指定されている。
1991~1998年にオホーツク海北部の海岸線および河川沿いで行われた調査では、繁殖に参加したペアの割合とテリトリーペア1組当たりに羽化したヒナの数が著しく減少(70%から35%へ)していることがわかった(Potapov 2000)。最近の同じ地域での調査でも、成功したペア1組あたりに羽化したヒナの数が過去10年間で減少していることが判明している(Potapov et al.) 河川沿いに営巣するワシの繁殖率が低下しているのは、春の洪水の頻度と強度が増加していることと関連しており、この洪水は狩りの成功を妨げ、その結果繁殖数が減少している(Potapov et al.)。 沿岸のペアにおける繁殖率の減少は、春の氷被覆の減少と関連している(Potapov et al.)。 ロシアでは水力発電プロジェクト、石油化学産業のための大規模な沿岸・ 沖合開発計画、木材の伐採などの開発中に生息地が改変され、絶滅の危機に瀕しているとしている(Ferguson-Lees and Christie 2001)。河川の工業汚染や高濃度のDDT/DDE、PCB、重金属は脅威であると考えられている(Iwata et al.)。 乱獲はロシアと日本で魚類資源の減少を引き起こし、その結果、北海道の鳥類が内陸に移動し、狩猟者が残したニホンジカの死骸をあさる傾向が強まり鉛弾を摂取することによって鉛中毒のリスクにさらされるようになった(Ferguson-Lees & Christie 2001)。日本では2004年に大型動物の狩猟に鉛弾の使用を禁止する法律が導入され、2014年にはさらに鉛弾の所持を禁止する法律が施行されたが、鉛中毒は依然として重大な脅威である(Ishii et al.)。
ワシントン条約付属書II、CMS付属書IおよびII(移動性野生動物種の保全に関する条約)、猛禽類MOUカテゴリー1(猛禽類保護協定)。ロシア、日本、中国、韓国で法的に保護されている。ロシアでは、マガダン州立自然保護区、クロノツキー州立保護区、クロン ツコエア湖野生生物保護区、カヴァ野生生物保護区(マガダン)、オレル野生生物保護区、ウディル野生生物保護区、ジュグジュルスキー自然保護区、シャンタルスキー自然保護区、コムソモルスキー自然保護区(ハバロフスク)、ポロナイスキー自然 保護区(サハリン)、クリルスキー自然保護区(千島列島)など、いくつかの保護区で監視されている。日本では北海道の重要な越冬地である知床と風蓮湖が鳥獣保護区に指定されている。
<分類>
亜種は分類されていないが、チョウセンオオワシH. p. nigerが朝鮮半島で繁殖していた個体群とされていたが、現在は絶滅している。チョウセンオオワシは肩の白色部が暗色でああることが標本から分かっている。
<渡り>
オオワシは集団で渡ることが近年解明されてきており、サハリンやカムチャッカ半島で集結した渡りが見られる。日本においては宗谷岬やオホーツク沿岸でも観察される(環境省自然環境局、2013b,Ueta et al., 2000; McGrady et al.,2003)。1998年の秋の観察ではサハリンから宗谷岬に590羽、一日最大230羽がが観察された(伊藤、1991)。1999-2000年の調査では1カ月に2000羽近く観察され1日最大500羽が観察された(植田ほか,2004)。近年では1日最大1500羽を超える観察例もある。
<飛翔形>
指状部(Fingers)は7枚であり、海ワシ類に共通する幅があり長い翼を持つ。体に対して翼の方が長い。羽ばたきもスライドが大きい。海ワシ類をシルエットで見分けることは難しい。オジロワシとの識別は遠方でも可能であり、尾羽がくさび型であること(オジロワシは扇形)、旋回時に翼の先端がやや反りあがっている(翼は水平に広げる傾向にある)事などから識別が可能である。