Vol.9 カンムリワシ Crested Serpent Eagle (Spilornis cheela)
2022.04.19
日本の亜種 成鳥
日本の亜種 幼鳥
日本の亜種 成鳥
台湾の亜種hoya 成鳥 日本のものよりも大きい
スリランカの亜種 spilogaster
<分布など>
インド、ネパール、ミャンマー、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの東南アジア諸国、中国南東部に分布する。日本では石垣島、西表島のみで繁殖している。与那国島や竹富島でも記録はあるが数例にとどまっており、繁殖地は無いと考えられている。森林性猛禽類であることや広範囲に生息することなどの理由から明確な個体数はわかっていない。日本に限っては2012年に環境省の調査が行われ、188個体が生息するとされた。今現在も200羽程度が見られる。世界的個体数が減少している証拠や大きな脅威がないことから、個体数は安定しているとして、「低危険種(LC)」とされている。日本の個体群は数が少なく、ロードキル問題や開発問題が付きまとう。地面で餌を探したり、食べたりすることが多く車との衝突が絶えない状態となっている。道路脇の樹木や電柱などから道路を横断するように飛翔することもしばしば見られる。ほとんどのものは森林性だが、石垣島や西表島のものは道路や電柱などに出てくるものも多い。石垣島、西表島に行かれた際は制限速度を遵守し、カンムリワシが目の前を横切る可能性があると意識しながらの運転を心がけて頂きたい。また、ぶつかってしまった場合は速やかに下記に連絡して頂きたい。
カンムリワシ救護連絡先
●西表島の場合 西表野生生物保護センター 0980-85-5581(24H)
●石垣島の場合 環境省石垣自然保護官事務所 0980-82-4768 (休日、時間外でも担当者につながります) 石垣市教育委員会文化財課 0980-83-7269 石垣市 0980-82-9911 (代表)
<分類>
分布域が広いことやほとんど移動をしない種であることから、特に島嶼では多く分けられており、21亜種もある。日本のものは種分化する可能性があるが、今のところ見送られている。いくつかの亜種を完全に別種として扱うこと学者も多い。過去にはフィリピンカンムリワシ(S. holospila)、アンダマンカンムリワシ(S. elgini)、サウスニコバルカンムリワシ(S. klossi)などのいくつかの種がカンムリワシの亜種として扱われたことがあり、それくらいに風貌も生態も似ている。
〇 S. c. cheela インド北部、ネパール、ブータン
基亜種。最も大きいとされる。上面は暗褐色で胸部は胸部は薄く帯状になり、尾羽の暗色帯は1本。
〇 S. c. melanotis インド南部
小型で、頬は灰色、尾羽の暗色帯は2本。
〇 S. c. spilogaster スリランカ
胸が褐色で、頬と喉が灰色。
〇 S. c. burmanicus ミャンマー、中国南西部、インドシナ半島中央から南部
色が薄く、バーリングが多く、頬と喉が茶色い。
〇 S. c. ricketti 中国南部、ベトナム
淡い褐色で、斑点や帯はほとんどない。
〇 S. c. malayensis マレー半島(ミャンマー、マレーシア、タイ)、スマトラ(インドネシア)
頬と喉が暗褐色で、下腹部に白色の帯と斑点がある。
〇 S. c. davisoni アンダマン諸島(インド、ミャンマー)
淡く、胸に暗い横帯と尾羽の暗色帯が2本ある。Andaman Serpent Eagle(Spilornis elgini)という別種も見られる。
● S. c. perplexus 日本の亜種
小型に分類される(他の亜種がLength: 65-75 cm Wingspan: 123-155 cmに対し、本亜種は Length: 55cm前後 Wingspan: 110cm前後)。他の亜種に比べると淡く赤味がかっているといわれる。Ferguson-Lees, James and Christie, David A. (2001)では、Nias Serpent Eagleとして別種にするべきとして扱われている。
〇 S. c. hoya 台湾
頬と喉が黒く、下半身にはっきりとした白色の斑点がある。
〇 S. c. rutherfordi 海南島(中国)
黒っぽく、模様がはっきりとしている。
〇 S. c. pallidus ボルネオ島北部(マレーシア、ブルネイ、インドネシア)
中型で、より色が濃い。ボルネオ島にはMountain Serpent Eagle(Spilornis kinabaluensis)という別種もみられる。
〇 S. c. richmondi ボルネオ島南部(インドネシア)
淡い褐色で、頬と喉は灰色、胸には縞模様がない。ボルネオ島にはMountain Serpent Eagle(Spilornis kinabaluensis)という別種もみられる。
〇 S. c. natunensis ナトゥナ諸島およびブリトゥン島(インドネシア)
Ferguson-Lees, James and David A., Christie(2001)はNatuna Serpent Eagle としてこれを種として記載している。
〇 S. c. sipora ムンタワイ諸島(インドネシア)
Ferguson-Lees, James and Christie, David A. (2001) はMentawai Serpent Eagleとして種とみなしている。
〇 S. c. batu バトゥ島(インドネシア)
小型で、色も濃い。
〇 S. c. asturinus ニアス諸島(インドネシア)
小型。個体数はわかっていない。Ferguson-Lees, James and Christie, David A. (2001)では、Nias Serpent Eagleとして別種にするべきとして扱われている。
〇 S. c. abbotti シメルエ島(インドネシア)
小型。隔離された小さな島嶼で、種分化させるか意見が分かれている。数百羽が見られるという。
〇 S. c. bido ジャワ島、バリ島(インドネシア)
中型で、胸と上半身が黒く、腹にはっきりとした白斑がある。
〇 S. c. baweanus バウェアン島(インドネシア)
現在ではBawean Serpent Eagleとして別種であると考えられている。現在60-75羽しか存在しないとみられる。
〇 S. c. palawanensis パラワン島(フィリピン)
中型で、赤褐色のバーリングがある。Phillippine Serpent Eagleという別種がパラワン島以外のほぼフィリピン全土にみられる。
〇 S. c. minimus ニコバル諸島のGreat Nicobar is.以外か?(インド)
Central Nicobar Serpent EagleまたはSmall Serpent Eagleとも呼ばれる。ニコバル諸島には、ニコバルカンムリワシ Great Nicobar Serpent Eagle(Spilornis klossi) という別種もみられるが、Great Nicobar is.に限られるようだ。頭部が黒く、下腹部が褐色で、下腹部にはっきりとした白色の斑点がある。
<渡り>
渡りは行わないと見られる。台湾のテレメトリー調査では、1日の98%をとまっていることがわかっている。正式記録ではないが、近年になって八重山諸島の各島でも越冬している可能性が考えられている。そのことからも留鳥性が強い。大陸では夏季にしか見られない場所があるとされるがどこかわかる資料は見つけられなかった。
<飛翔形>
とてもクマタカに似ている印象を受ける。スマートさはなく翼の面積も広い。指状部の枚数も7枚であり、翼の後縁は膨らんでいる。遠くを飛んでいるとハゲワシ類に見えることもある。日本でみられるカンムリワシはなかなか飛んでいる姿を目撃することが少ない。